アンジャリ

下北沢にあるインドカレーの店。若くて人の良さそうな店主が、南インドスリランカのいいとこ取りをしたようなカレーを出している。いろいろ調べてみると2014年に開店したらしい。たぶん開店直後から時々行ってると思う。時々といっても、年に1,2回くらいだけどね。だからたぶん店主からは毎回初見の客だと思われてるんじゃないか。

 

下北沢駅の南口を出て、茶沢通りを三茶方面に少し下った右手側の路地を入っていくと店はある。奥まった店の入り口が道路に対して少しだけ低くなってて、スロープ状に下ってドアに到着する。この、道路から店に入るまでの少しの間にどうも趣きを感じる。店に辿り着くまでに南口の茶沢通りをテクテク歩くうちに身に纏った、街の騒々しさを振り払ってくれるような気分になるのだ。


やや薄暗い店内はカウンターとテーブル席がふたつほど。席数は少なめ。カウンターは正直狭いんだけど居心地はいい。まったく控え目ながら内装や調度品の数々は効果的に店内の雰囲気を柔らかくしていて、そのセンスは素敵だと思う。なにより、これ見よがしじゃないところがいいね。頑張ってても、頑張りました! って顔はしないというか。

 

カレーもそんな感じだ。
カレーの種類はそんなに多くなくて4,5種類くらいで、ときどき限定のカレーがそれに加わってて。行くと毎回だいたい2種類のカレーを頼むのだけど、気が付いたらエビのカレーはいつも選んでると思う。たぶんエビカレーがここの一番人気で、実際に美味しい。ただ、それ以外のカレーを頼んでも、これ選んでよかったという気分にさせられる。だからまあ全部美味しい。
それとライスの皿に乗っている副菜も気が利いている。味も良いが色合いが綺麗。最近では流行りの手法だが、開店当初からやっているこの店は割と先鋭的だったんじゃないか。いまだったらそれは「インスタ映え」という括りで片付けられそうな話だが、あくまでインスタ映えというのは写真を撮る側、観る側の感じ方であって、そしてインスタ映えという言葉には時として揶揄を込めた意味を持つこともあるが、その揶揄とは写真を介在した情報のやり取りに対して向けられたものであって、料理を作る人にとっては綺麗な盛り付けも当然料理の一部なのだから、どうか流行りの文言のネガティブな面にストレスを感じないように頑張って欲しいと思う。


こんな、誰に向けた願いかサッパリ判らないことを考えながら、ふとこの店のために「インスタ前にインスタ映え」というダジャレを思いついたので、意味が合ってるかインスタグラム日本語版の開設日を調べたら2014年の2月とかで、つまりこの店の開店よりちょっと早いという全く面白みのない結果になったのですぐに忘れたい。ちなみにインスタグラムのことは嫌いじゃない。俺もインスタで見かけたカレー食べに行くことあるし。

 

食べ終わり外に出て、右手を見ると下北沢の街中の通りがあり、ちょうど100均のダイソーなんかが見えるが、反対側を振り返るともうそこには住宅地がある。道幅も更に細くなっていて、その先は突き当たりなのか、曲がり角があるのか、ぱっと見では判らない。住宅地だから当然静かで、外からやって来た人間にはおいそれとは踏み込めない生活圏の雰囲気が張り詰めている。


もちろんこういうのの感じ方は個人差があるんだろうけど、俺はそういった、空気の変わり目に惹かれてしまう。その先にはどんな道が続いているのか。またはすぐに突き当たりに行き着いて、気まずい思いで引き返してくるのか。実は、曲がりくねった道を抜けると、ひょっとして思いもよらないデカい幹線道路に通じてたりして、なんて。

 

果たして、そこに住む人たちはアンジャリのカレーを食べにくるのだろうか。商圏としての下北沢にてやっているカレー屋に、生活圏としての下北沢に住む人たちは食べにくるのだろうか。想像は尽きない。とりあえず俺はまた初見の客のふりをしてまた食べに行こう。